友田明彦
農業を志した理由
理由を書く前に、農業に辿り着く前のことを少し書きます。
大学を卒業して、すぐ大阪に本社がある大企業と言われるものに希望に燃えて入社しました。ところが、そこで私が目にしたものは一生かけて働いて、残ったものが、「うなぎの寝床の家だけ」という現状。地方の小さな町で生まれ育った私は都会でのサラリーマンの暮らしをイメージはしていたものの自分自身のこととして始めて認識した瞬間でした。
それからというものまずは故郷に帰ることにして、給料は安くても家や土地がある地元で暮らせば給料の差額を補えることができるのではないかと思っていました。しかしサラリーマンはどこでやってもサラリーマン物を売るか事務仕事をするかいずれにせよ、ものを創造するということとは程遠い状況でした。
その後いくつかの会社を経て、家具の商品企画及び輸入の仕事をしていました。ここではものを創るという仕事にかなり近いことをしていましたが、そこで決定的に一から物創りをしたいと思うようになりました。というのも、もちろん自分が商品を企画することがスタートなのですがその商品が消費者の手に渡るまでには家具メーカー(もちろん外国の=管理が困難)が入ります。
ということは、自分の意図しない品質の商品が消費者のもとに届くということになるのです。
そのジレンマはサラリーマンとしては解消できない事実でした。
そこで私は、「一から物創りをできる仕事」とはと考えるに到りました。いろいろ考えた結果百姓か職人かになるしかないという結論に達しました。そのころにちょうど新聞で大分県の新規就農者募集の広告を目にしました。説明会に行った後はトントン拍子に安心院で就農することになりました。農業を始めるにあたって作りたい作物が特にあったわけではなく安心院町の勧めるままにブドウを作ることになりましたが今では正解だったと思っています。
良かったこと
一番良かったことは、良くても悪くてもすべて自分のやっていることなので、結果に納得できるということです。ということは私にとってはストレス・フリーを意味します。
しかしながら「結果に納得」といってもそれでは一人前とはいえませんので自身の技術の向上のためには労を惜しみません。しかも農業は自然が相手だとはいいながら、一定の範囲でいろいろな変化に対応できる技術もあるので、うまく対応できたときは非常に達成感があります。
もうひとつは、商品に対する良い評価を頂いたときです。直接顧客に販売しているので、たまに顧客より手紙などを頂いたり、食べておいしかったので自分もぜひ買いたいなどと言って注文を頂いたりした時は、誇らしい気持ちとがんばってよかったという気持ちでいっぱいになります。
苦労したこと
苦労したことは、現場で役に立つ栽培技術を身につけることでした。
つまり、文献などを読めば(私はかなり沢山読みました)素人でもブドウを作れるのではないかと思うのですが(現実私はそう思っていました)、実際に現場で作業することは、判断と決断の連続なので、その判断の基準と現場の変化に対する対応能力がないと、品質の高い商品を作ることができません。ブドウは実験室の中で生育しているのではなく、圃場で生育しているということです。
判断と決断の連続の中では間違いが必ず起こります。その間違いを後の工程で修正できるか否かが、重要な問題だと気づきました。ここまで出来て、本当の技術のような気がします。
もうひとつは、最初のころは頭の中でシミュレーションが出来なかったことです。
これは、経験年数とも関係がありますが、ブドウが10日後どうなっているか分からない、どうなっていなければならないか分からないということでした。
これは、判断する上でとても重要なことです。10日後のあるべき姿を今日の状況から推測して今やるべき作業を決定することや、10日前に推測した状況と現状とを比較して今まで行ってきた事が正しかったか、今後どのように修正していくかを判断し決定しなければならないからです。
最後に(成功するために)
成功するための一番良い方法は、地元の良い指導者に巡り合うということだと思っています。ともすれば、聞き伝えの最先端技術を鵜呑みにしたり、有機栽培にこだわったりする人が見受けられます。しかしながら、農業技術は非常にデリケートなので、気象条件が異なる遠方の技術がそのまま移行できるほどなまやさしくはありません。とくに、有機栽培は長い年月の経験と技術が必要な栽培方法ですから、最初から挑戦するにはリスクが大きすぎます。とにかく、慣行の栽培技術がトップクラスになってからチャレンジすることをお勧めします。もしかしたら、栽培技術がトップクラスになれば有機栽培がいかに困難で、ビジネスとしては成り立ちにくいかを知る結果になるかもしれません。
繰り返しになりますが、不必要な苦労をしないためにも、地元の高い技術を持った指導者に指導を仰ぐべきです。もちろん最初はあまり歓迎されない場合もあるでしょうが、受けた恩は汗で返すなり、熱意を持って学ぶ姿を見せていれば、高い技術を持っている人ほど最後には応援してくれると思います。
「誰も教えてくれない。」などと愚痴っている暇があったら、とにかくどこかに行って話を聞きましょう。
アグレッシュにも、いろいろな作物のエキスパートがいます。